Hello World from Deep Diver
西暦2018年、日本国東京都内某高層ビル…。
数多くの企業が所狭と並んでいるフロアうちの一箇所に彼らはいた。
「まったく、こんな簡単な仕事、引き受けてくるなよ。」
「そう言うな、これでも一応立派な依頼だ。」
周囲に気を配っている男の愚痴に端末に向かっている男が答える。
「あんたはそう言うけど、最近は簡単な依頼しかないだろ?俺はつまらねぇよ。」
「何でいつもそうなんだ?お前はもともと他の連中から、煙たがられているのだからな。
もうちょっと自粛しろ。」
「そういうけどな。俺は、これでも充分、自粛しているんだよ。あんたなら、そのへんわ
かるだろ?」
見張りの男がやや声を荒げて言うが、端末に向かっている男は、先ほどと変わらない口調
で、言葉を返す。
「わかっているが、周りが納得しないんだよ。皆が逃げるための時間稼ぎを、お前がやっ
ていることくらい、わかっているはずなんだがなぁ…。」
「それじゃ、やっぱり俺のやり方が悪い、って言いたいのか!?」
「バカッ!声がでかい!」
一方が小声ながらも、叩きつけるように叫び、もう一方も同じように小声で叫ぶ。
「…悪い…不注意だった。」
先に叫んだ男が、意外にも素直に声を沈める。
端末をいじっていた男が、指を鳴らしていった。
「よしっ!これで転送完了!」
いいながらディスクを取り出す。同時に、静かだった室内に、突如警報の音が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
「しまった、ここまで警備システムが何もないから、油断していた!データをディスクに
転送して、取り出そうとすると警報が鳴るシステムだったのか!?」
「じゃあ、すぐに逃げないと、警備員が!?」
「ああ、急ぐぞ!」
交互に叫ぶと、二人は全力でその場を後にした。
翌日、喫茶店Blue Angelで、昨夜見張りをしていた男が、店長の女性と話をしていた。
「それでさぁ、木島は庇ってくれたんだけど、他の連中が騒ぎたてるから…。」
「自分から抜けてきたのでしょう?もう3回目よ、そろそろ終わらせてくれない。その話
も、コーヒー一杯でずっと居座るのも。」
「酷えな天川さん。それが無職になった人に言う言葉ですか?」
彼女は当然のように「その通りよ、何か文句ある?」といった表情で彼を見ると1枚の
紙をテーブルの上に置いた。
「なんですか、コレ?」
当然の疑問を口にする彼に、彼女は優しげな笑顔で答える。
「再就職先よ。ちょうど、智哉君見たいな人を、探しているって頼まれてから。早速行っ
てみたら?」
それを聞いて、彼の顔が一転して明るくなり、紙をつかんで席を立った。
「サンキュ、早速行ってみます。」
言いながら体はすでに入り口に向かっている。
「あ、お勘定!」
「判っていますよ、ここに置いときます。」
彼はカウンターに小銭をばら撒くように置くと、早足で店を後にして駅へ向かった。そ
れを何処か温かい微笑で見送ると、カウンターに置かれた小銭を確認し、慌てて外に飛び
出す。
「智哉君!お金足りてないわよ、コーヒーは一杯700円だって、言っているじゃない!200
円、足りないわよ!」
エレベーターに向かって叫び声をあげるが、彼の姿はもう見えなかった。彼女の言葉ど
おり、カウンターの上にはばら撒かれたように、100円玉が5枚散らばっていた。
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