失われた大地に花束を〜endless bulled〜
失われた大地に上陸してから三日、達也は再隆起した地区を戸惑いながら歩いていた。
再隆起したのは、彼がHOLDによるネイティブアルター掃討作戦で、捕らえられた後の出
来事で、彼はそのとき本土で生成されている途中だったのである。勿論、この地に戻って
くるに当たり、再隆起したことなどは教えられていたが、これほどまでとは思っていなか
った。これでは、彼が以前暮らしていた、居住区は全滅してしまっているかもしれない。
「…行かないよりは、行くほうがマシかな?どうなったか見ておきたいし。その前に一息
入れておくか。」
手近な座れそうな岩に腰を下ろしたときだった。西のほうから爆音と共に、爆煙が上が
った。
「何だ!?…まさか、アルター使い?!」
これほどの出来事なら、アルター使い如何に関らず、本土に報告しなければならない。
達也は即座に腰を上げると、まだ微かに残っている爆煙を頼りに、音のした方向へ向かっ
ていった。
「確か、このあたりだと思うけどな。」
達也は先ほどの音のしたところから、わずかに離れた所でその場を伺った。そこで、まず
目に飛び込んできたのは、彼と同じときに失われた大地にやってきた仲間の一人、そして
右肩に羽根のついた、融合装着型のネイティブアルターだった。驚いたことに、傷を負っ
ていたのは、彼の仲間のほうで、ネイティブアルターはまったくの無傷だった。
「クッ…。」
「どうした、テメエの意地はそんなもんか?」
呻きを漏らす彼に、ネイティブアルターは残酷な笑みを浮かべながら、告げる。
「嘗めるなっ!」
彼のアルターがネイティブアルターに向かうのと同時に、相手もまた叫び声を上げる。
「撃滅の、セカンド・ブリッドォ!!!」
声と同時に翼が砕け、そこからすさまじい風が起こる。彼はその風に乗って、アルターご
と相手を吹き飛ばした。
相手は、そのまま岩にたたきつけられ、動かなくなった。
「チッ、もう終わりか?歯ごたえがねえな。」
達也はその光景を見ながら迷っていた。彼の情報は、何があって本土に送るべきだと。そ
のためには、彼と接触しなければならない。だが今彼との接触を試みれば、先ほどの仲間
のようになってしまうのは目に見えていた。距離を置いて看視をするべきか、それとも今
すぐ彼と接触するか。正しい答えは当然後者。しかし、彼は前者を選んだ。数日間、彼の
行動を看視し、本土に報告する。そちらのほうが、安全かつ確実に任務をこなせるからだ。
達也はそう決めると、ネイティブアルターに目を向けた。そして、彼がまだアルターを消
していないことに気づいた。また、彼の目が自分のことを見つめていることにも、同時に
気づく。
「そこにいるヤツ。テメエはこいつの仲間か?それとも、ただの見物人か?答えろ!」
達也は答えなかった。いや、答えられなかった。先ほどのあのアルターの威力、その前に
彼が聞いた爆音も、あのアルターによるものであることは、疑いようが無かった。そこま
での威力を誇るアルター使いに、彼は理性でも、本能でも、敵わないことを理解してしま
っていた。全身を恐怖と戦慄が包み込み、震えが止まらず、指先ひとつ満足に動かせそう
に無かった。
「答えねえなら、テメエは敵だ!敵は潰す、徹底的にだ!」
彼は、そういうと拳を握り締めた。そして、それに続いて叫び声をあげる。
「抹殺の、ラスト・ブリッドオオォォォ!!!」
残っていた翼が砕け、先ほどよりも激しい風が巻き起こる。彼はそれに乗って、達也の下
へ殺到した。
「うわぁ!」
達也は情けない悲鳴を上げ、間一髪のところでそれを避けた。目標を失った拳が、そのま
ま先にあった岩を、文字通り粉々に打ち砕いた。同時に彼のアルターが解け、腕が元に戻
っていく。
「なっ…。」
その威力に、改めて驚愕する達也。と、突然彼を影が覆った。気がついて、視線を向ける
と、そこにネイティブアルターがいた。
「その格好…テメエは、本土のアルター使いだな!」
「ネ、ネイティブアルター…。」
達也の言葉に、彼は嬉しそうに口元を歪めた。
「そうよ、俺はテメエ等の言葉で言う、ネイティブアルターってヤツよ。だがな、覚えて
置け。俺の名前は、シェル・ブリッドのカズマだ!」
言い終わると、彼…カズマは再び右腕をアルター化させ、拳を握る。
「逃げんじゃねえぞ。衝撃の、ファースト・ブリッドォ!」
迫りくるカズマに、達也もあわててアルターを出す。両の拳を、青いグローブ上に覆う
アルター。
「グ、グルービー・フィスト!」
「何!?」
間一髪で、グルービー・フィストが、シェル・ブリッドを止めた。だが勢いまでは殺せず、
達也は弾かれて、後ろにあった岩に、叩きつけられた。
「グゥ!」
全身を衝撃が走り、呻きが口から漏れる。
それとは別に、カズマは楽しそうな顔をしていた。
「へへ…やるじゃねえか。それじゃあ、こいつはどうだ?オオォ…。」
カズマの叫びに呼応するかのように、右腕のアルターが変化していく。背中の翼は赤から
金色に変わり、同時に巨大なものなっていた。翼だけではない、アルター全体が黄金に輝
くものに変わっていた。
「シェル・ブリッド・バーストォ!」
翼が回転し、カズマの体が浮き上がる。同時に、ジェット機のように、中央の噴射口から
風が吹き出し、それを推進力として、先ほどより格段に早い速度で達也へ向かっていく。
「う、うわあ!」
再び悲鳴を上げ、グルービー・フィストでシェル・ブリッドを受け止める。だが、今度は
グルービー・フィストが砕け、シェル・ブリッドの直撃を食らった達也は、そのまま気を
失ってしまった。
意識がなくなる直前、カズマの叫びが達也の耳に届く。
「どうした、テメエの意地を見せてみろ!意地は無えのか!?それなら、根性でもいい!
どっちかを見せてみろ。そんでもって喧嘩だ!喧嘩の続きをしやがれ!」
(そんなこと、言われたって…立てないんだから、しょうがないだろ…。)
声を出すことができず、頭の中だけで答える。それが判ったのか、カズマは再び叫んだ。
「意地も無ければ根性も無え、そんな無い無い尽くしで喧嘩してんじゃねえ!男だったら、
少しはなんか見せてみろお!」
結局、達也はそれにも答えることはできず。彼の意識はそのまま、深い闇の中に落ちてい
った。
前項へ
次項へ
小説TOPへ