木漏れ日の目覚め

 夢…夢を見ている…終わりの無い夢…いつかは終わる夢…長い空白の時間を飛び越え…

僕は今目覚める。

 「祐一さん!」

朝、登校中の祐一を見つけた栞は彼の名前を呼んで駆け出す。

「よぉ栞。寒いのに相変わらず元気だな。」

「でも、今日は地面が滑りやすくなってるから走るのは危険だよ。」

祐一とその隣にいる名雪の二人がそれぞれ栞に声をかける。

「滑ったら雄一さんに受け止めてもらいます。そういうのドラマみたいでちょっとカッコ

いいですから。」

栞はそういって微笑んだが後ろからゆっくりと追いついてきた香里を見ているとどちらに

しろ変わらないような気がする。

「だからって急に走るのはやめて欲しいもんね。走らなくても待っててくれるんだから。」

「そうだよ、祐一は恋人を置いていけるほど白状じゃないよ。」

本気で迷惑そうな表情で言う香里の言葉を名雪が微笑みながら補足する。

「うー、お姉ちゃん酷いよぉ。」

「冗談よ。」

頬を膨らませて文句を言う栞に一転して笑いながらお決まりの一言を言う香里。

「でもな栞。飛び込んできたら普通避けるぞ。」

「祐一さん酷いですー。」

真顔で言った祐一の言葉に栞の頬がますます膨らむ。

「勿論冗談だ。」

「冗談でもダメです。祐一さん嫌いです。」

祐一は笑いながらいったが栞は膨れっ面のまま先に立って歩き出す。

しかし祐一の次の一言で彼女の顔は一瞬にして笑顔に変わる。

「そうか、昼飯の後にアイス奢ってやろうと思ったんだがお預けだな。」

「わ、アイスは欲しいですー。」

「しかも2個だぞ。」

「2個もあったらアイスだけでおなか一杯になっちゃいます。お昼が待ち遠しいです。」

「でも栞が俺のこと嫌いなんじゃなぁ。」

「わ、祐一さん大好きですー。」

悪戯っぽく微笑みながら言う祐一の言葉に慌てて栞が先ほどの言葉を訂正した。

やや後ろからその光景を眺めていた香里が呟く。

「あの二人を見てると栞が去年まで重い病気だったなんて忘れそうになるわ。」

「そうだね、私も春になってそれを聞いたときはビックリしたよ。去年まで香里に妹さん

がいたなんて知らなかったし。」

同じように二人を眺めながら微笑んでいた名雪があいづちを打つ。

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