木漏れ日の目覚め
その名雪に向って香里は僅かに聞こえる程度の声で呟く。
「ありがとう、名雪。」
「え、何、香里?」
香里の言葉を聞き取れなかった名雪が彼女を見ながら聴き返す。
香里はそれに答えることはなく微笑むと駆け出しながら言った。
「なんでもないわ。それより急がないとあの二人においてかれるわよ。」
「わ、待ってよ香里。」
それを見て名雪も慌てて三人を追いかけていった。
昼休み、いつもの場所で昼食をとる二人。
「私の作ったお弁当おいしいですか?」
「ああ、美味いよ。でもな栞、いい加減この量は何とかしてくれ。」
栞の問いかけに答える祐一の前には相変わらずおかずがぎっしり詰まった重箱程の大きさ
の弁当箱が置いてあった。
それでもその数が一つに減っただけましなほうである。
一方栞は手にもったアイスを満足そうに口にしている。
「祐一さんなら大丈夫です。」
「一体何の根拠があってそんなことがいえるんだ?」
「根拠は無いですけど祐一さんならきっと大丈夫です。」
「無理だ…。」
「いつもそういって全部食べてるから大丈夫です。」
「あのなぁ…。」
常に笑顔で答える栞に言葉をなくした祐一は冷汗混じりの笑みを浮かべると目の前の弁当
箱に立ち向かうのだった。
放課後、受験間近の3年は本来授業が無い為自習や先生への質問で午前中を過ごし、昼
過ぎに下校する為栞は1人で家路につくことになる。
最近彼女は下校途中に商店街を抜ける。
昨年まで病気の為あまり外に出ることが無かった彼女は賑やかな場所がお気に入りなのだ。
新年度が始まってすぐは学校の特別措置である病気での長期休校者を対象とした進級判定
試験が5月にある為その勉強をする為、その試験に無事合格した後は祐一と2人で、時に
は名雪と香里を含めた4人で商店街を歩いたりして一緒に過ごしていた。
しかし、冬になり受験が近づいた為に祐一は放課後も受験勉強で忙しくなった。
栞は祐一と一緒にいたいのはやまやまだが、受験に成功してほしいという思いから放課後
の時間を諦めた。
その代わり少しでも楽しく過ごせるようにと商店街を通って帰るようになったのである。
彼女は一年前の冬のことを思いだしながら商店街を歩く。
祐一と初めて会ったときのこと、再開したときのこと、共に過ごした時間、誕生日に
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