闇街忌憚

その言葉に利樹は首を縦に振ろうとしたが、それを雄哉が手で制すと懐へ手を入れながら

小さくいった。

「ふざ…けるな…。」

「へ?」

「ふざけるな!」

良く聞き取れなかった和真が、間延びした声で聞き返すと、今度は怒鳴りつけるような大

声で叫び、懐から拳銃を取り出した。

「おわ、ちょ、ちょっと待った落ち着けって!」

「そうだぜ雄哉、もうちょっと落ち着いて考えろよ!」

それを見た和真が驚き、慌てて説得しようとする。

味方であったはずの利樹も流石に拳銃には驚いたのかそれに同調するが、雄哉は全く耳を

貸さない。

「うるさい!利樹、おまえは怒りを感じないのか?!こいつらの御かげで俺達の人生は滅

茶苦茶にされたんだぞ!」

言いながら雄哉は撃鉄を挙げ、引き金を引こうとする。

が、引き金は引かれることなく拳銃は地面に落ちていった。

一瞬の差で小雪が拳銃を叩き落したのだった。

「はいはい、そういう危ない事はこの辺でおしまい。これからは穏便に話し合いましょう

ね。」

小雪は簡単にいったが回りの三人はそれどころではなかった。

雄哉は拳銃を叩き落されたショックから、後の二人は小雪が叩き落した拳銃が暴発したこ

とからあるいは驚き、あるいは慌て話すどころの問題では無かったのである。

「小雪、お前落ち着きすぎ!弾こっちに飛んできたんだぞ!」

「あら、たいしたこと無いじゃない。ほらほら、そこの二人も騒いでないで大人しくしな

さい!」

結局和真のツッコミもたいした意味をなさず、ほぼ強制的にその場に座らされた三人であ

った。

そして…。

「じゃあこっちの条件を呑むということで、一週間以内に天海利哉は引退ね。」

小雪の言葉と共にろくな話し合いも行われず天海利哉の引退が決定したのであった。

 それから3日後、出演していた全てのイベントが終了した時点で天海利哉は引退を発表

した。

本人が述べた理由は『己の力の無さを悟った』だったが、裏ではいろいろな噂が囁かれた。

最初の一週間は芸能記者に自宅を張り込まれたりしていたが、夜逃げ同然で引越しをし、

買い物を全て利樹に任せ、雄哉自身は家の中に引きこもっていたこともあり、和真の言葉

通り三週間後にはほとぼりは冷めていた。

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