闇街忌憚

「本当に無い、ダビングもしてないし。」

小雪は再び彼の首をしめる。

「何でダビングしてないのよぉ!!!」

彼女の絶叫が食堂中に響き渡り、続いて二人の周りから爆笑する声が沸き起こった。

 夕方、和真は自宅の本棚の奥から引っ張り出したビデオテープを手にとって眺めていた。

「本当は一応ダビングしてたんだけどねぇ…。ま、あの様子なら必要ないでしょ。」

そう呟くと部屋の隅にあるダストボックスに向ってテープを放り投げる。

テープは緩い放物線を描いた後、派手な音とともにダストボックスの中に消えていった。

「小雪の奴に見つからないうちにこうするのが一番だよな。」

彼はそういって部屋から出て行った。

部屋の机には一枚の封筒が置いてある。

テレビ出演の直前、天海利哉こと海藤雄哉から一度だけという条件付でテレビに出ること

になったという報告の手紙。

渡したテープのケースに挟んだ和真の連絡先に律儀にも手紙を送ってきていた。

その律儀さと一回限りという条件を信じて和真は全て知った上であえて恍けていた。

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