闇街忌憚
オカルト研究会主催の『心霊体験肝試しツアー』というのがある。
と、いってもわざわざ肝試しのために旅行をしたりするのではなく、地元で有名な心霊ス
ポットを一日かけて廻るのである。
その恒例行事に話題の霊能者、天海利哉がゲスト参加するという情報は一気に広まり、今
年の参加者は例年の10倍にも膨れ上がった。
その中には、あの時食堂で話していた連中と、本人の知らないうちに勝手に参加登録され
ていた和真、和真の参加を知って面白半分で参加した小雪も含まれていた。
「皆さん、本日は我が超常現象研究会主催の『心霊体験肝試しツアー』に参加していただき、
誠に有り難うございます。」
司会者が拡声器を手にお約束な挨拶をすると集まった参加者から拍手が起こった。
「それでは、早速ゲストの方に登場していただきましょう。今回の特別ゲスト、霊能者の
天海利哉さんです!」
その言葉に参加者たちから再び拍手と、そして歓声が沸き起こり、それに迎えられて霊能者
天海利哉が登場した。
「それでは、天海さんからご挨拶を戴きたいと思います。」
そういった司会者から拡声器を渡された利哉が話し始める。
「皆さん、おはようございます。今日も暑いですが、頑張っていきましょう。」
ただそれだけだが、それでも参加者からは拍手と歓声の嵐が吹き荒れる。
それがやむと、オカルト研究会のメンバーを先頭に移動が始まる。
恐い物見たさに先に立つ者、気楽に話しながら中ほどを行く者、脅えながら後のほうを行
く者等それぞれが思い思いの位置で移動していく。
和真たちは集団の最後尾のほうにくっついて移動していた。
「ふぁ…。」
和真が大きな欠伸をして眠そうな目をこするのを見て小雪が微笑む。
「眠そうね和真君。」
「ん…ああ、そりゃ朝早くから誰かさんに起こされたんだから眠くもなるな。」
「誰かさんって誰のこと?」
「さてね…。」
和真はそういって小雪に微笑みかけると再び大きな欠伸をした。
「ずいぶん疲れているようだね、綾瀬和真君。」
その欠伸を見て、そういいながら利哉が近づいてきた。
彼は和真のことをオカルト研究会のメンバーから聞いていたのであろう。
「おかげさまでそれなりに。」
微笑みながら近づいてくる利哉に対して、和真は眠そうな顔つきを変えないまま答えた。
天海利哉という人物はずいぶん軽い性格らしく、初対面である和真に対しても気さくに
話し掛けてきた。
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