闇街忌憚
鎧武者が現れ、人を襲うこともしばしばあるという噂があった。
そういった噂のあるところだけにこのツアーでも毎年避けていた場所だが今年は違った。
なんと言っても有名霊能者である天海利哉を呼んでいるのである。
当然、何かあれば主催者側としては彼に解決してもらうつもりでいた。
「えー、この草原は戦国時代の古戦場でいまでも鎧武者が現れるという場所です。」
ガイドの声に参加者から歓声や悲鳴が聞こえてくる。
「人を襲うという噂もあるので、このツアーでも普段は避けていたのですが…。」
その言葉が途中で途切れガイドの視線が参加者たちの後方の一点に集中される。
参加者たちもそれに続いて振り返ると、ガイドの視線の先に鎧武者が立っていた。
それを見た参加者たちから歓声と悲鳴が一斉にあがる。
それに反応するように鎧武者は手にしていた刀を振り上げると、手近にいた参加者に向か
って思いっきり振り下ろした。
その参加者にはあたらなかったが全員の顔が一斉に恐怖の色に変わり、蜘蛛の子を散らす
ように逃げ散っていき、残されたのは主催者であるオカルト研究会のメンバーと天海利哉
だけだった。
「ここは危険だ君たちも早く逃げなさい。」
利哉が緊迫した声と表情で周りにいたオカルト研究会のメンバーにいうが、彼の除霊を見
ようとして誰一人その場を動こうとしない。
「何をしている!早くここを離れるんだ!」
その叫びを浴びて、ようやくオカルト研究会のメンバーたちもその場から散っていった。
残された利哉はしばらく鎧武者を凝視しつづけていたが、あたりから人の気配が完全に
消えると鎧武者に向かって笑いかけた。
それを見て鎧武者が兜を取ると、その下にはにやけた笑みを浮かべる男の顔があった。
「幽霊役ご苦労さん、利樹。」
「上手く行ったな、雄哉。」
そういって二人は互いに笑いながら軽く肩を叩き合う。
その光景を何人かが少し離れた草が深くなっているところから見ていた。
「な、面白い物が見れただろ?」
そういったのは和真だった。
「有名霊能者の中に、稀にああいうのがいたりするのよね。」
小雪の言葉に和真が頷きながら共に行動していた友人たちを見て、微笑んでから言った。
「ま、お楽しみはこれからだよ。」
オカルト研究会員が戻ってきたのは、その後すぐだった。
結局、ツアーは利哉の進めもあってそこでお開きというかたちになった。
参加者たちはせっかくの有名霊能者の除霊を見るチャンスを逃して悔しがる者や、危険は
あったが何も被害がなく終わったことで、胸をなでおろしているもなど様々だった。
次へ
前へ