木漏れ日の目覚め
8年前あゆが落ちた木があった場所を目指して他のものなど目に入っていないかのように
走っていた。
彼の頭の中をよぎるのは一年前の冬のこと…あゆと再会し、再び分かれたときのことであ
る。
『そっか…約束守ってくれたんだ。』
彼女を思い出す直前のこと。
『祐一君!』
満面の笑みを浮かべて飛びついてきたときのこと。
『うぐぅ、祐一君が避けたぁ!』
それを避けた後木にぶつかったときのこと。
『栞ちゃん!』
突然栞に飛びついてきたときのこと。
『あのね、探し物…見つかったんだ。』
そういってきたときのこと。
『ばいばい…祐一君。』
最後の別れのような寂しそうな微笑を浮かべてそういった彼女。
全てが思い出として記憶をよぎる。
「そうか…そうだったのか…。」
その中で息を切らせながら祐一が呟く。
「あゆ…俺は…。」
呟きながらようやく木のあったところにたどり着く。
「俺はお前のことを忘れてたわけじゃない!ただ、思い出したくなかったんだ!」
切り株が見えたところで、祐一は俯いて叫んだ。
そして、顔を上げると切り株の手前にあゆと…栞が切り株を見つめていた。
「あゆ…栞!?」
祐一はそこにあゆがいたことよりも栞がいることに驚いて叫ぶように彼女の名を呼ぶ。
あゆと栞は振り返ってちょっと笑って見せた後真剣な表情になった。
祐一はその2人に近づきながら話を始める。
「あゆ…ここが…。」
「ここがあゆさんが木から落ちた場所なんですね…。」
「そうだよ…僕と祐一君の学校だったんだ。」
それを遮って二人の少女の口から交互に出てきた言葉に祐一は驚いた。
「栞…あゆから話を?」
栞が頷くのと同時にあゆが話をはじめた。
「そうだよ、僕が栞ちゃんに教えたんだ。秋子さんと会った後、栞ちゃんと内緒で話して
ここに呼んだんだ。」
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