木漏れ日の目覚め

「栞とはどうやってあったんだ?栞は家に帰ったんだろ。」

栞が私服を着ているのを確認してから尋ねる。

「夕飯を食べてからでいいといわれたので、先に場所だけ聞いて後からきました。事故の

話はそのときに聞いたんです。」

「秋子さんから大体どのくらいの時間に話すか聞いといて、丁度話が始まるくらいの時間

にここに来て欲しいって栞ちゃんに頼んだんだよ。」

栞とあゆが交互に答えるのを聞いて祐一はいちいち納得したように頷いてから今度はあゆ

に尋ねた。

「あゆ…お前まだ眠ってるんだろ?まさか死んだなんて事は無いよな?」

「うん…僕はまだ病院で眠ってるよ。だからこの僕は夢の中の僕なんだよ。」

「そうか…それで、何であれから一年も経ってからまた顔を見せたんだ?」

その質問にあゆは栞を見て微笑んでから話をはじめた。

「2人が…祐一君と栞ちゃんが仲良くしてるか気になってたんだよ。それで、ちょっと様子

を見にきたんだ。でも、もう戻らなくちゃ。二人が仲良くしてるのがわかったから。」

「あゆ?」

「あゆさん?」

その言葉が終わる頃、徐々に消え始めたあゆを見て二人が驚いてあゆの名を呼ぶ。

「…ばいばい、祐一君、栞ちゃん。ちゃんと仲良くしてないとダメだよ。」

「あゆ!?」

「あゆさん!?」

2人が同時に彼女の名を呼ぶが、彼女はそれより一瞬早く消えてしまっていた。

2人への最後の言葉と微笑を残して…。

 翌日、あゆの病室に日の光を入れようとした看護婦がふとベッドに目をやると信じられ

ない光景がそこにあった。

「先生、先生きて下さい!あゆちゃんが…あゆちゃんが目を覚ましたんです!」

そういって看護婦は病室を飛び出して廊下を駆けていってしまった。

半分ほど開かれた窓からは木漏れ日が病室を照らしていた…。

 半年後…。

ギラギラと輝く太陽が照り付けていた。

この雪の街も夏の盛りである。

その街の中を1人の少女が駆けていた。

走りながら少女が目前にいる数人の男女に向って話し掛ける。

「みんな!遅くなってゴメン!」

「遅いぞあゆ!もうお前を置いてっちまおうかって相談はじめたところだぞ!」

「うぐぅ、酷いよ祐一君!」

「そうだよ祐一、もうちょっと優しくしてあげないと可哀相だよ。」

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