木漏れ日の目覚め

 そこまで説明すると秋子は祐一の顔を覗き込むように見る。

祐一は状況が飲み込めてないといった表情で秋子を見ていた。

「祐一さん?」

「あ、はい。なんでしょう?」

秋子の言葉に祐一が我を取り戻す。

「これからあゆちゃんにお願いされた話をします。今から丁度8年前の冬の話を。」

「8年前…俺が最後にこの街に来た時ですか?」

「そうです。その年に、木が切られたんです。昔からあった大きな木が…。」

「木が切られた…それがあゆとどういう関係があるんですか?」

未だに状況が飲み込めずキョトンとしているがそれでも質問をする祐一に、一旦間を置い

てから話を続けた。

「…その木は直前に起きたある事故が原因で切られることになってしまったんです。」

「ある事故…?」

祐一の言葉に小さく頷いてから再び話を続ける。

「でも、その事故は木があったから起きてしまった事故なんです。だから原因になった木

を切ることになったんです。」

「秋子さん、その事故ってひょっとして…。」

話を聞いていいるうちに思い出してきたのか祐一が半ば確信を持って話を遮るが、秋子は

かまわずに話を続ける。

「その事故というのはある女の子がその木から落ちたことなんです。」

その言葉は祐一の体中に衝撃を走らせた。

そして次の言葉で祐一の頭の中を記憶の波が津波となって溢れ出してきた。

「その女の子の名前が…月宮あゆちゃんなんです。」

(ツキミヤアユ)

記憶の波に呑まれ、処理しきれなくなった祐一の思考回路をあゆの名前が駆け巡る。

(ハチネンマエニキカラオチタ?)

「そしてその場にいたのは…祐一さん、あなただけだったんです。」

(オレハアユガオチルノヲミテイタ?)

祐一の頭の中に8年前の記憶が鮮明に蘇ってきた。

「そうだ…あの時確かに俺とあゆは一緒にいた…。」

蘇った記憶を辿りきった時、祐一は急いで立ち上がると部屋に戻ってコートを取り、戻っ

てくると早口で喋って玄関へと向った。

「すみません、ちょっと出かけてきます!」

「はい、気をつけてくださいね。」

夜遅くにも関わらず見送る秋子は声も表情も優しいものだった。

 すっかり暗くなった街の中を祐一は一気に駆け抜けていく。

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