木漏れ日の目覚め

「あゆちゃん…。」

名雪は静かに呼びかけたが、あゆはそれに答えず黙ったまま名雪を見ていた。

「あゆちゃん、探してたんだよ。」

名雪がそういうとあゆは何も言わずに背を向けて走り出す。

「待って、祐一が探してるの!だからお願い、私と一緒に来て!」

名雪も慌てて追いかけながら叫ぶが、陸上部だった彼女の足でもあゆに追いつくことは出

来ず、結局彼女を見失ってしまった。

「あゆちゃん…。」

名雪は彼女を見失った場所でもう一度彼女の名前を呟くと、少し疲れた足取りで集合場所

へと向った。

 集合場所には既に名雪以外は全員集まっていた。

「名雪!」

祐一は彼女を見つけると右手を大きく振って呼びかける。

「祐一…ゴメン、あゆちゃんに逃げられちゃった。」

「名雪、お前あゆに会ったのか!?」

「うん…だけどね…。」

驚く祐一たちに名雪はあゆと出会った時の状況を細かく説明した。

「そうか…。」

説明を聞いた後、祐一は小さくそういうとそのまま黙ってしまった。

「ゴメンね祐一。」

「なに謝ってるんだよ。名雪が会えたってことはまだこの街にいるってことじゃないか。

少し休んだらもう一度皆で探そうぜ。」

祐一は申し訳なさそうな顔でいう名雪に向って笑いかけるとそういったが、結局その日あ

ゆが再び彼等の前に姿をあらわすことは無かった。

 その夜、祐一は秋子にも栞と名雪があゆに会ったという話をした。

「そうですか…あゆちゃんがまたこの街にきたんですね。」

「ええ、でもなんか変なんですよ。二回とも何もいわずに笑ってただけで話し掛けたら走

って逃げたらしいんです。」

「そうですか…おかしな話ですね。」

「でしょう?」

「でも、あゆちゃんがこの街にいるのは本当みたいですね。解りました、私も見かけたら

声をかけてみます。」

「お願いします。」

デザートのイチゴサンデー(秋子の手作り)を口にしながら祐一は頭を下げた。

 翌日、祐一たちは再び商店街であゆを探した。

「じゃあ、3時半にここでな。」

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