木漏れ日の目覚め

「実はあゆちゃんのことなんです。」

「あゆの?」

祐一の問いかけに小さく頷くと静かに話し始めた。

「実は今日商店街であゆちゃんに会ったんです。」

その言葉を聞いて祐一が身を乗り出してくるが、秋子は慌てずに手で制してから話をはじ

めた。

 「秋子さん…。」

夕飯の買い物をしていた秋子は背後から名前を呼ばれゆっくりと振り向くと、そこには真

剣な表情のあゆが立っていた。

「あら、あゆちゃんじゃない。一体どうしたの?」

あゆはその問いかけに答えるでも無く、ただ真剣な表情で秋子を見つめていた。

そこまででも秋子が聞いていた話とは完全に違っていた。

これまではあゆは何も話さずにただ微笑んでいるだけだったと聞いていた。

だが、今回はあゆの方から話し掛けている上にその表情も真剣なものである。

「黙ったままじゃ解らないわ。さ、あゆちゃん。どうしたのか教えてくれる?」

秋子の言葉に、あゆは重い口を開きはじめた。

「実は秋子さんにお願いがあるんだよ。」

「お願い、私に?」

秋子が聞き返すのにあゆはいちいち頷いて見せてからまた話を続ける。

「祐一君に話してもらいたいことがあるんだけど…。」

「私から祐一さんにあゆちゃんの事で話すようなことは無いと思うけど?」

その言葉にあゆは首を左右に少しだけ振ってから答える。

「秋子さんは僕のことにもう気付いてるんだよね?」

「あゆちゃん…じゃあやっぱり?」

「うん、秋子さんの思ってるとおりだよ。だからそのことを祐一君に話して欲しいんだ。

思い出してくれるかと思って栞ちゃんや名雪さんたちに会ってみたけどやっぱり無理みた

いだから…。」

そういって俯くあゆに秋子はやさしい言葉をかける。

「わかったわ。私から祐一さんに話してみるわね。」

「ありがとう、秋子さん。」

秋子の言葉に顔を上げ、満面の笑みを浮かべていうとあゆは手を叩いていった。

「じゃあ、僕そろそろ戻らないといけないから。」

「そう、祐一さんが思い出してくれるといいわね。」

「うん、じゃあね。」

「ええ、さようならあゆちゃん。」

笑顔で手を大きく振るあゆに秋子も手を振って返すと、あゆは走り去っていった。

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