Ray Hazardz

自分が人殺しを頼む理由まで聞いてきたのだから、当然引き受けてくれるだろうと思って

いただけに、その言葉を聞いて驚きの声をあげる。

「な、なんで?どうして受けられないんですか?」

「いちいち説明してもらわないとわからないか…。」

彼は納得できない彩を見てそう呟くと話をはじめた。

「簡単なことだよ、あんたは世間を知らな過ぎる。」

「そんなことありません!私は別に世間知らずなお嬢様なんかじゃ…。」

「そう怒鳴るなよ。何も馬鹿にしてるわけじゃ無いんだ。」

「世間知らずなんていわれて怒らない人はいません!」

彩を諌めるのに失敗した彼は首を左右に軽く振り、小さく溜息をついてからようやく言葉

を見つけたかのように話し出した。

「わかったよ、ちゃんと説明するから…とりあえず料理食べながらでも聞いてくれないか

な?金払うのは俺なんだし、もったいないだろ。」

彼が指差した先には、手付かずの状態で冷めかけた料理が、恨めしげに皿に盛られていた。

「わかりました。ただし、ちゃんとわかるように説明してもらいます。」

彼女は不満そうにそういうと、料理を一口食べてから言った。

「…この料理、あまりおいしくないですね。」

「そりゃ冷めてるからね。また今度温かいのを試してくれよ。」

彼女の文句に当然のように切り替えしてから説明をはじめる。

「俺も別にあんたが世間知らずだなんて思ってないよ。少なくとも普通に生きていく分に

はね。でも、今みたいに裏社会に足を突っ込むとなるとどうかな?」

「私はこれでも刑事の娘ですよ。裏社会のことだって少しくらいはわかってるつもりで

す。」

その答えに口元を少し歪めながらさらに話を続ける。

「言い切るね。それじゃあどんなことを知ってるのか教えてみてくれよ。」

「馬鹿にしないで下さい。知らなかったらあなたに連絡なんて取れません。」

「そりゃそうだ、他には?」

「他には…え、えっと…。」

彼以外の事を聞かれた彼女は言葉に詰まる。

彼はさらに口元を歪めて彼女が考えるのを制した。

「もういいよ。つまり考えなきゃ思い出せないし、ひょっとしたら知らないかもってこと

だろ?つまり、あんたは裏社会についてその程度しか知らないってことなんだよ。」

その言葉は、彼女を鎮めるには充分だった。

鎮めるというよりは沈めるといったほうが正しいだろうか?

とにかく彼女は自分が裏社会のことを全く知らないことに気付かされたのだ。

「俺が"世間を知らない"って言ったのはそういうこと。そんな人間が裏社会のことに足

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